精神医療の過剰診断

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精神科医の中には分かったふりをする人が少なくありません。短時間の診察で誤った病名をつけたり、見当違いの薬をどんどん増やしたりして患者を苦しめます。本書では、こうしたブラックな精神科医たちが次々と登場します。儲け優先の製薬会社や、精神疾患の患者を露骨に差別する司法、何があっても見て見ぬふりの行政など、社会を形成する様々な組織や人々が、精神医療の暴走を後押しした事例も数多く紹介していきます。


これまで何度も、精神医療の世界の闇や欺瞞性について言及してきましたが、依然としてその実態は変わっていないようです。

2013年から2014年にかけて、厚生労働省は精神医療改革に関するいくつかの重要な対策を打ち出しましたが、関連学会の抗議や政治的な力によって、骨抜きになったものもあるそうです。例えば、向精神薬の処方剤数を診療報酬の減額で規制する仕組みなどが挙げられています。

精神医療の世界では以前から、下記のような問題点が指摘されていますが、この傾向は益々ヒドくなっているように見えます。

1.精神科医が患者を薬漬けにしている
2.精神科医が安易に抗不安薬や睡眠薬を処方し、依存に陥らせている
3.精神科医のでたらめ処方によって患者の命と健康が奪われている
4.精神科医のずさんな処方が患者を自殺に追い込んでいる
5.精神科医は病気でない健康人を精神疾患と診断して抗うつ薬を出している
6.精神科医によるずさんな投薬が凶悪犯罪に結びついている
7.精神科医の診断に、科学的・客観的裏付けがあるわけではない



この精神医療の問題点を長年追求されている、佐藤光展氏(読売新聞東京本社医療部記者)が『「悩める健康人」襲う過剰診断』と題する下記のような記事を書いておられます。(2015年1月6日 読売新聞より)


ーー引用はここからーー

安易な自己診断表で受診すると……

2014年12月、神奈川県の「県のたより」を何気なく開いた私の目に、「毎日ちゃんと眠れていますか?」「もしかしたら、それは『うつ病』かも」という大きな見出しが飛び込んできた。

「またか」。思わず声を漏らしていた。わずか3項目だけの「うつ病」チェック。こうした雑な自己診断表は、これまでも全国各地の広報紙に掲載され、過剰診断、過剰投薬の呼び水となってきた。

◎ 疲れているのに2週間以上眠れない日が続いている

◎ 食欲がなく、体重が減っている

◎ だるくて、意欲がわかない


この3項目にあてはまる人の中には、確かにうつ病の人もいるだろう。だが、それは一部にとどまる。大きなストレスを受ければ、満足に眠れない日が続くことは珍しくない。食欲低下やだるさは、だれにでも頻繁に起こりうる。埋もれがちな患者を医療につなげるためとはいえ、多数の健康人を惑わすような広報が、果たして適切といえるのだろうか。

更に、このうつ病チェックには別の問題もある。精神疾患の国際的な診断基準「DSM―5」が、うつ病の主症状として挙げている「睡眠過多」「食欲増加」「体重増加」などが、完全に抜け落ちているのだ。これでは逆に、うつ病が見逃される恐れもある。

このような安易なうつ病チェックで不安になり、「病者意識」が芽生えた人が精神科や心療内科を受診しても、医師が基本的な診断能力を身につけてさえいれば、問題は深刻化しない。

精神科医の井原裕さんが以前から指摘しているように、多くはうつ病患者ではなく、「悩める健康人」なのだから。だが、ろくに話も聞かずに「うつ病」と決めつけ、抗うつ薬や睡眠薬をすぐに処方する医師が絶えない現状では、受診がかえってあだになり、心身の健康が脅かされる事態が生じていく。


中村勘三郎さんも被害に

一例をあげてみよう。2012年に57歳で亡くなった歌舞伎役者の十八代目中村勘三郎さんのケースだ。妻の波野好江さんの著書「中村勘三郎 最期の131日」(集英社)に、精神科での災難が詳しく記されている。会話部分を同書から引用させていただき、紹介してみたい。

事の起こりは2010年暮れ。ひどい倦怠(けんたい)感などに見舞われた勘三郎さんは、東京の総合病院に入院した。当時、東京・東銀座の歌舞伎座は建て替え工事中で、集客力の低下が懸念されたため、勘三郎さんはこれをカバーしようと、例年以上に多忙な毎日を送っていた。

こうした状況からみれば、体調不良は過労の影響と考えるのが自然だ。好江さんは同書に「更年期障害だったとしか思えない」とも記している。ところが、勘三郎さんを担当した精神科医は、十分な診察もなしにこう言い放ったという。

「あなたは五十六年間躁(そう)病だったんですよ。それで今ウツになられてしまった。(中略)悟りなさい。長くやってたんだから、もういいじゃないですか。定年ですよ」

勘三郎さんは我が耳を疑い、「えっ、僕、芝居、できないんですか?」と聞き返した。すると、精神科医はこう続けたという。「こういう病気になった人はもう台詞をしゃべれません」。

勘三郎さんはショックを受け、以後、次々と処方される抗うつ薬などを飲み続けた。しかし副作用に苦しむばかりで、病院を替えても好転しなかった。結局、回復に導いたのは薬を使わない医師だった。この医師はきっと、勘三郎さんがうつ病ではないことに気づいたのだろう。

勘三郎さんは元気を取り戻したが、すぐに食道がんが見つかり、手術後に亡くなった。もし精神科での不要な遠回りがなければ、食道がんはもっと早く見つかっていたかもしれない。そう思うと残念でならない。

精神疾患のほとんどは原因が分からない。研究者たちは、科学的根拠に基づく精神医療を確立するため、日夜努力を続けているが、臨床現場を劇的に変える発見は当分見いだせそうもない。ある精神科医は、検査や治療の劇的進歩を「20年から30年先」と予想し、別の精神科医は「50年先」と予想する。

まだしばらくは、曖昧模糊(もこ)とした精神医療を受け入れるしかないのだが、それならばせめて、患者が「受診してよかった」と思える医療体制を築いて欲しい。そのために記者の私ができることは、患者や医療者の声を幅広く拾い、伝え続けることだと考えている。

ーー引用はここまでーー



ところで、「疾患啓発広告」の在り方が問題にされています。最近、製薬会社が疾患啓発広告を頻繁に発信しているためで、近年も、神経障害性疼痛(とうつう)や逆流性食道炎、レビー小体型認知症などを扱ったテレビCMが盛んに放送されてきました。

処方箋医薬品を広告できない製薬会社は、その薬を使う病気を「宣伝」(疾患喧伝(けんでん))することで、医療機関を受診する患者を増やし、自社の薬の売り上げを伸ばそうとしています。

こうしたテレビCMは、時に、自分の病気に気づく患者もいるなどのプラス面もあるようですが、視聴者や読者に誤った印象を与えたり、過剰診断・過剰投薬のきっかけになったりするマイナス面が強いものです。



例えば、過去の啓発キャンペーンよって、うつ病患者が不自然なほど急増した前歴があり、過剰診断を招きやすい精神疾患の広告には問題があるわけです。

医薬品の不適正使用問題に詳しい精神科医の斉尾武郎氏は、疾患啓発広告のあり方について次のように語っておられます。

「製薬会社がわざわざ『病気』の情報を世間に広めようとするのは、『わが社の(高価な)新薬を使えば、この病気を防いだり、治したりできますよ』というメッセージを社会に伝えたいから。製薬会社が広めようとしている『病気』が、本当に世間が知っておくべき病気ならば問題は起きない。

そうした『病気』が本当に新薬で救われるというのであれば、疾患啓発は良いことだと思う。しかし、現実には、疾患啓発キャンペーンに持ち出される『病気』はしばしば、誰でも感じるような、病気とも言えないような身体の些細(ささい)な不調であったり、人間の通常の老化現象であったり、治療のための薬が重い副作用を持つものだったりする。

製薬会社は、有名人を使って疾患啓発キャンペーンを展開するが、わざわざ高い広告費を払ってまで広めなければならないほど重要な『病気』なのだろうか。そうしたものは、本来は政府の広報や学校の保健教育、ひいては家庭で養生の知恵として、知っておくべきことのはず。製薬会社がおためごかしに宣伝するべき筋合いのものではない」






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